星波島星祭り in WEB

starlit blue topia 星波島前日譚

「ーーっと、悪い」
曲の話をしていた時、依空の携帯の電話が鳴った。
常であればディスプレイの表示をちらりと見て話し合いに戻るのだが、今回は違うらしい。ミーティングが中断されて、亜蘭は少し不満げだ。
悪いな、と手で謝りながら、依空は電話を片手にスタジオの外に出ていった。


依空が戻って来たのは、それから五分程経ってからだ。
「お前ら、よーーく聞け」
元より依空の感情は分かりやすいが、今はことさら分かりやすい。妙に嬉しそうな表情をしていたのだ。
「――星波島に行くぞ」
開口一番、依空は告げる。それに対して大きな反応を返したのは亜蘭だ。
「はあ? あのしょっぼい島に何しに行くんだよ」
「決まってんだろ、ライブだ」
不満そうな表情をしていた亜蘭は、その言葉にしぶしぶ口を閉じた。亜蘭は、音楽に対しては人一倍ストイックだ。
依空の突然の発言に文句は沢山あるだろうが、音楽が絡むとなるとのみこんでしまう。
「さっきの電話がその話?」
「ああ、理音からかかって来たんだよ。向こうでやる星祭りってのに出ないか、って」
「そう」
有貴は成程ね、と一つ頷いた。
星波島。
僕らのいとこである、天地理音が芸能の仕事を休業して星波島に行ったことは記憶に新しい。都会暮らしだった彼が、離島である星波島に馴染めるのか少しばかり心配だったけれど、それも杞憂だったようだ。
少なくとも、こうしてライブ出演の電話をかけてくるくらいには、向こうでも楽しくやっているらしい。
「よし、さっき中断した話に戻るか。俺たちの曲を聴いてもらえるんだ。良い曲を作らないとな~」
「……俺歌えれば何でもいい」
「はいはい。さ、続きすんぞ」
依空は言葉と共に腕まくりして、手元のメモ帳を開く。
新は眠たげに瞬きをしていたが、話し合いにはきっちり参加するらしい。
依空の言葉からもやる気が感じられて、張り切っていることが分かった。

今までにstarlit blue topiaとしてライブに出演したことは何度かある。
大きい、とは決して言えない大きさのライブハウスで演奏したのだ。
曲と共に変わりゆくカラフルなライト、新の圧倒的な歌声、負けじと響いてくる楽器の音、そして熱気の立ち込めるステージ。
音の波の中で泳ぐかのように、ステージの上で演奏する彼らは生き生きとしていたし、何より輝いていた。
それでも。
一つだけ足りないものがあった。
それは、観客だ。
僕たちはフロアがお客さんでいっぱいになった光景を見たことが無かったのだ。
僕は彼らのサポートで、裏から支えることが多い。それでも、彼らを一番近くで見てきた僕には、彼らが紡ぎ出した音楽が素晴らしいことは知っていた。
僕たちの音楽をたった一人でも聴いてくれたら嬉しかった。けれど、もっと沢山の人たちに聴いてもらって、そして愛してもらえたらどんな気持ちになれるだろう。
ライブ終わりの「もっと頑張らないとな」という依空の言葉とは裏腹に、少しだけ落ち込んでいることを僕は知っていた。

星波島のライブでは、沢山のお客さんが僕たちの音楽を聴いて、楽しんで、そして僕たちの音楽を愛してくれる――。
そんな、まだ見ぬ光景を想像する。
その光景が見られた時に、ようやく依空の、そして彼らの頑張りが報われるような気がするのだ。
そんなことを考えていると、不意に有貴と視線が交わった。
「――有貴?」
少し首を傾げながらにこりと笑って、「そうだね」なんて言うのだから。
まるで頭の中を見透かされたようにも感じてしまった。
「うん。有貴の言う通り、そうなるといいよね」
言葉にすれば、不思議と本当にそうなるような気がしてくるんだ。

まだ見ぬ光景は、近い将来きっと現実になる。
そんな確信にも似た予感を胸に、僕はミーティングに耳を傾けることにした。

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