Birthday Story 香原 朱鳥

(そういえば、今日が誕生日だったっけ……)
なんてことを思い出させてくれたのは、仕事の帰りに寄った事務所でのこと。
事務所に顔を出し、軽く今後のスケジュールを話し、台本を受け取って帰ろうとしたら、デスクの子が「お誕生日おめでとうございます」と言って、ファンからの手紙やプレゼントを手渡してくれた。
事務所に届いたその贈り物は、とてもキラキラして見えた。
(まるで宝物みたいだ)
予想もしていなかったプレゼントや手紙の量に、驚いて反応が少し遅れてしまう。
「去年はお手紙が2通だったのに、今年は増えましたね」
「そ、そうだね。嬉しいよ」
1年前の今日も同じように事務所に顔を出し、手紙を渡されたことを思い出す。
たった1年で、オレを取り巻く状況は一変していた。
まだまだ駆け出しの新人声優だけど、去年受けた作品がヒットしたこともあり、ありがたいことに少しずつ仕事が増えていき、オレを応援してくれる子も増えたみたいだ。
「今日はこれから誕生日会でもするんですか?」
「う~ん、どうだろうね。そうだといいんだけど」
肩をすくめると、クスっと笑われた。
「きっと賑やかな夜になりますよ」
「ありがとう」
そう言って、腕の中の宝物たちをぎゅっと抱きしめた。

デスクの子が予想し、オレが望んだ通り、今夜は賑やかな夜になった。
帰って玄関をくぐるとすぐにクラッカーのシャワーがお出迎え。
驚いている暇もなく両腕をぐいっと引っ張られると、リビングへ連れて行かれ、ともちゃん特製のケーキやかあちゃんのお手製料理が所狭しと並べられていた。
だけど、それらを堪能する余裕もなく、次々に「おめでとう」の言葉をかけられ、すぐにオレの誕生日会が始まった。

「くくっ……」
さっきまで盛大に開催されていた誕生日会での出来事を思い出しただけで、笑えてくる。
今は一人、自室で余韻に浸っていた。
とてもいい夜だったから、このまま終わらせたくない。
そんな事を考えながら部屋を見まわしていると、先ほど事務所でまとめてもらったファンからの贈り物たちが目に留まった。
それらを手に取り、ひとつひとつ中身を確かめ、一通ずつ手紙を読んだ。
手紙の中には、たくさんの煌めく言葉が綴られていて、そのどれもがオレを嬉しくさせる。
声優にならなかったら出会えなかった人たちがいる。
声優になったからこそ届けられた想いがある。
開業医の長男に生まれ、跡継ぎになる事を期待されて育った。
幼い頃から、そうなる事が当然のように育てられたけど、胸の中のもやもやは少しずつ大きくなっていて、今にも爆発しそうだった。
そんな時に、オレのもやもやを爆発させたのは――。
「朱鳥、いる?」
ノックと共に顔を出したのは、幼なじみのともちゃんで、声優になるという無謀な夢を後押ししてくれた恩人だ。
「どうしたんだい? オレに会いたくなったのかな?」
「バカな事言わないでくれない。これ、渡しにきたんだよ」
手渡されたものは、小さな箱ですぐにそれが誕生日プレゼントだと分かった。
「これ! そう、これ! これを待ってたよ! 何か足りない! 絶対に足りないと思ってたんだ!」
ガサガサと箱を開けるとそこには、ロボットのプラモデル。
「これって……」
「そう、約束だっただろ? 売れっ子になったら買ってやるって」
遠い昔に軽はずみにした約束をともちゃんは覚えていてくれた。
「ありがとう。……嬉しい」
また宝物が、一つ。
これから先、オレはどれくらい宝物を手に入れ、抱きしめられるのだろう。
「まだまだ売れっ子ではないけど、ちょっとは売れっ子ってことで特別な」
こくこくと強く頷くと、ともちゃんは顔を呆れたように笑った。
オレの夢の隣にはいつもともちゃんがいて、何だかんだ文句を言いながらも見守っていてくれる。
また、ここから頑張ろう。もっと多くの人たちにオレの声を届けよう。
そう心に決めて、プラモデルの箱をぎゅっと抱きしめた。

MaStar☆Up!!