Birthday Story 宝生 嘉月

その日、朝からどこか侑にぃの様子がおかしかった。朝食のときからずっとそわそわしていて、僕がどうしたのと聞いてもどこか上の空だった。心配だったけど、「侑巳のことは私達に任せて!」という言葉を信じて、バイトに行くことにした。
(侑にぃ、大丈夫かな……、絵の仕事、上手くいってないのかな)
 バイトに集中しようとしても、ふとしたことで朝の侑にぃのことを思い出してしまう。そんな変にそわそわした気持ちのまま、バイトを終えて家路を急いだ。
 ただいま、と逸る気持ちのまま僕が玄関の扉をあけると、出迎えたのはいくつものクラッカーの音。
「…………え?」
「ハッピーバースデー、嘉月!」
 ルームメイト達の揃った声を聞きながら、僕は何が起こったか分からず玄関先で何度も瞬きを繰り返す。
「ほら、ぼーっとしてないで早く入った入った」
「え、あ、まってよ」
 燈火君に手を引かれて、僕は慌てて靴を脱ぐ。そして、案内されたダイニングルームには華やかな飾り付けと、テーブルいっぱいのご馳走、そして僕のことを待っていたみんなの顔で、僕は今日が何の日なのかをようやく思い出す。
「……そっか、今日って僕の誕生日だったんだね」
「え、忘れてたのかよ!」
「うん……。そういえば、侑にぃの様子がおかしいなとは思って心配だったんだけど」
 そう言いながら、そちらの方を見れば、侑にぃは気まずそうに視線を逸らす。なんだ、そういうことだったんだね。僕はほっと胸をなで下ろす。
 ふと、侑にぃの傍で巴さんと朱さんが何か小声で話しているのが聞こえるが、断片的な単語しか聞き取れない。
「うるさい、今更言われなくても分かってる」
 二人の言葉に侑にぃはぶっきらぼうな返事をし、いつもの仏頂面で僕の方へ歩み寄る。
「…………自分の誕生日忘れて、人の心配してじゃねーよ」
 そう言いながら、侑にぃは綺麗にラッピングされた堤を僕に手渡す。
「あ、ごめん……ありがとう。開けても、いい?」
「好きにすれば」
 侑にぃからの許可を得て、僕はそっとプレゼントの包みを開ける。包みの中には、見覚えのあるロゴの入った黒地のパーカーがあった。
「これ……僕が好きなブランドのやつだよね、覚えててくれたんだ」
「前に買い物に行ったとき、欲しそうな目で見てただろ」
「とか言いながら、最後までプレゼント何にするか迷ってたくせにー」
「……! うるさい、この馬鹿燈火! 余計なことを言うな!」
「あ、侑巳照れてる!」
「違う!!」
 また盛大な言い合うが始まったのを見て、僕は思わず小さく笑ってしまう。子供の頃は、いつも侑にぃと二人きりだった誕生日。それでも、僕は構わなかった。だけど、こうやってみんなに祝って貰える誕生日も楽しいものだと、教えて貰ったから。
「……ありがとう、みんな」
 僕は貰ったパーカーを抱きしめながら、みんなに笑いかけた。

MaStar☆Up!!