Birthday Story 蘭 羊平

「……まさか、この年になってまで誕生日会を開いて貰えるとは思ってなかったな」
そう苦笑しつつ俺は賑やかなリビングからそっと抜け出し、縁側に腰を落ち着ける。
そして、こっそり拝借した瓶ビールの蓋を開けた。
みんなでご馳走を食べて、プレゼントを貰って、一応お誕生日会はお開きになったのだが、
リビングの方に耳を傾ければまだ賑やかな声が聞こえる。
「若者は元気があっていいな〜」
笑いながら、俺はグラスにビールを注ぐ。縁側から見える月がいつもよりも綺麗に見えるのは、
自分の誕生日だからだろうかと柄にもないことを思っていると、誰かが近づいてくる気配を感じた。

「今日の主役がこんなところで何してるんですか?」
「なーんだ、君か」
俺が振り返ると、そこにはこのシェアハウスの新しい管理人ちゃんがいた。
「いやー、今日はいっぱい祝ってもらったからな。おじさんは少し疲れちゃってさ。今は休憩中」
「賑やかな誕生会でしたからね。ご飯もお酒もテーブルいっぱい並んで、私も楽しかったです」
「うちのシェアハウスの住人は祭り好きだからな。まぁ、俺はそれを理由に酒が飲めるからありがたいけど」
言いながら、俺はグラスの中のビールを一気に煽る。
すると、彼女が空になったグラスへ新たにビールを注いでくれる。
「ありがとな。こんな可愛い子にお酌して貰えるなんて感激だ」
「ふふっ、今日はサービスです」
「まったく、誕生日さまさまだよ」
彼女に注いでもらったビールを、今度はゆっくりと味わう。
少し肌寒い秋の風を感じながら、いい夜だなと俺は思った。
見上げた空には綺麗な月。耳を傾ければ鈴虫の演奏会が聞こえる。
その上、美味い酒とお酌をしてくれる可愛い女の子もいて……こんな風に誕生日を過ごすのも悪くない。

昔は、祝い事といったら仲間と馬鹿みたいに騒ぎ、
溺れるだけ酒に溺れて意識を飛ばすのが当たり前だった。
そうやって時間を無為に過ごすことで、掴みそびれたチャンスから目を逸らして忘れたかったのかもしれない。
だけど、希尋はそんな俺にもう一度チャンスを掴ませようと、このシェアハウスに招待した。
最初は、前と変わらず適当に過ごしていればいいと思っていた。
だけど、破天荒で愉快で、どこか真っ直ぐな住人達とともに日々を過ごして行くにつれて、
自分の中で頑なになっていた心が解けていくのを感じる。
「……こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ」
「え、何がですか?」
「いやいや、こっちの話」
不思議そうに首をかしげる彼女に笑顔で誤魔化しつつ、俺はもう一度、グラスに口を付けた。
昔の俺から知ったら、信じられないと笑うかもしれない。だけど、今の俺はこんな日々も、
こんな俺も悪くないんじゃないかと思い始めていた。

MaStar☆Up!!