Prologue Story 05 Whereabouts

Side
イソラ

午前の業務が一段落して食堂に向かうと、そこには黒猫がテーブルに突っ伏して寝ていた。
(……爆睡だな)
黒猫は先ほど執務室に任務完了の報告をしにきて、それが終わるとふらりと出ていってしまった。緊張の糸がゆるんだのか疲労からか……おそらくどちらもだろう。
黒猫は長期の潜入任務から帰ってきたばかりだった。
「おい起きろって」
頭をつつくが、起きる気配がない。
全身を黒のスーツでかため、普段は空気のような自然さでその場にたたずんでいる。そのくせ、時折はっとさせられるほどの存在感を放ち、妙に人の内側に入るのが上手なヤツ。やはり、あの時の俺の目は間違っていなかったのだと思わされる。
黒猫の名前は、アラタ・ユイと言う。
「アラタ、寝るなら部屋行けって」
「……ん」
ぼんやりとした言葉からいまだ覚醒状態にはほど遠く、これはしばらく眠りから覚めなそうだ。
「いつもならアリタカが回収するんだが……あいつ、今外回りだしな……」
ここで眠っているのが他のヤツなら放置一択だが、アラタは少し特殊な事情があってなるべく人目のつく場所に置いておきたくない。
しかたない、これは俺が運ぶしかないだろうとアラタを背負う。
「お前、意外とデカいな」
「……」
つぶやいた言葉は、うしろからむにゃむにゃという声に消される。