Prologue Story 06 Good old days

Side
アリタカ

数ヶ月に一度、唐突に「飲みにいこう」と身元不明の人物からの連絡がある。俺のいる組織の都合上、気を遣ってそんな連絡の取り方をしているという。しかしいっそ普通に連絡してくれたほうがありがたいと、最近は思うようになった。
彼との飲みは仕事の区切りがつくようであれば参加し、そうでなければ次の機会に、ということにしている。しかし毎回毎回、ひと山越えたかなというあたりで連絡をよこしてくるものだから、今のところ欠席の連絡をしたことがない。
もっとも情報を取り扱う彼のことなので、俺たちの仕事が落ち着きそうなタイミングを見計らって連絡をしているのかもしれない。彼にはそれができるだけの力がある。
そのあとも適当に注文をし、出てきた料理に舌鼓を打っていると話は昔話になっていった。
「こうやって飲んでると、ついつい昔のこと思い出しちゃうよね。出会った時のこととか、現場でうっかり鉢合わせしちゃったときのこととか」
「そうだね」
酒が口を軽くする。とは言えトアは情報屋なので、飲みの場でこぼした情報をも売買するかもしれない。
そう思うとすべてを話すこともできず、どこかで一線を引かざるを得ない。それが時折もどかしく感じることもある。
「……今のアリタカを昔のアリタカが見たらなんて言うかな。あの時からは想像できないもんね」
トアはくすくすと笑う。あの時、というのは俺がトアに大きな借りを作ってしまった日のことだろう。
「……そうだね」
トアの話に相槌を打ちながら、俺はその日の出来事を思い出していた。