今日という日は一年に一度の特別な日だったが、幼なじみの彼女は少し機嫌が悪いらしかった。こっちはほんの少し――いや、大分期待しているのに。柄にもなくそわそわしている気もする。
「どうしたんだ? そんな顔してると可愛くないぞー」
その機嫌を少しでも良くさせてやれたら、と思って声をかける。けれど、返ってきた反応は想像とは違い、不機嫌そうな顔は沈んだ顔に変わっていった。
「そんなに落ち込んで……どうしたんだよ」
「……さっき、可愛い女の子からバレンタインのチョコ貰ってたもんね」
不機嫌だと思っていたが、拗ねていたらしい。そんな表情をしている理由が分かり、フキンシンながらも頬が緩んだ。
「全部断った」
その言葉を聞いたあいつは驚いた顔をする。
「俺が欲しいのはひとつだけだから。だから、お前以外の誰からも貰ってない」
拗ねて、驚いて、それから嬉しそうな笑顔を浮かべる。ころころと変わっていく表情が可愛い。
「だから、さ。俺に渡すもんないのか?」
駄目押しの一言に、あいつは照れながらも綺麗にラッピングされた袋を渡してくれた。
「すげー嬉しい。ありがとな」
さっきまで欲しくてたまらなかったものが俺の手の中にある。早速ラッピングを外して食べようとするけど――。
「……食べたらなくなるの、もったいねーな」
早く食べたいけど、食べたらなくなってしまう。どうしたもんか……と真剣に考えていると、あいつは俺を見て笑っていた。
「なくなったらまた波智のために作るよ。これから先もずっと、作るから。だから何回でも受け取って?」
「……! 当たり前だろ!」
ずっと先まで続く約束をして、俺はハート型のチョコに手を付けた。