星屑ヘリオグラフ

宇良星真

Profile
学年:高校2年生 / 誕生日:1月17日 / 星座:山羊座 / 誕生花:コチョウラン / 血液型:A型 / 趣味:風景散策 / 特技:カメラ
あなたの後輩。高校2年生。
両親の離婚で中学の時に本土から引っ越してきた。
口数が少なく、表情の変化に乏しい。
昔は写真を撮っていたが、とある理由で写真を撮らなくなった。
学校には気まぐれで行くものの、あなたと昴と波智が作った写真部には毎日のように顔を出している。

4コマ

オレノセカイ
幼い頃に母さんからもらった、青色の小さな箱。
フタのついたそれに、大切なものを入れてきた。
ジュースの瓶についてた王冠、ビー玉、国旗のついた爪楊枝――初めて俺が撮った、空の写真。
それを取り出して、指の腹で撫でてみる。

「あの時は、世界一綺麗な青色だと思ったのに……」

言葉が鼓膜を震わせ、身体に入り込む。瞬間、胃がきゅうっと絞られるような感覚に襲われた。それを消そうと、俺は箱の中身を全部ひっくり返す。
中には子どもの頃に宝物だと思っていたガラクタに混じって、撮り続けた、105mm×148mmの世界たちが床の上へ落ちていった。
何百枚という世界の上へ寝転び、その中の一枚を無造作に掴んでみる。
白い雲、青い空、銀色のビル郡、黄色の花、赤く色づいた山、茶色の犬、緑色のアイス、三毛の猫、七色の虹……
あの時は夢中になって撮っていた。
世界を切り取って、そして見せる度に笑ってくれるのが嬉しくて、もっと撮った。
でも今は――

「……っ」
星波島へ来てから撮った海の写真を一枚掴んで、天窓から注ぐ星の光に照らして見る。だけど、やっぱりダメだった。
この写真だけじゃない。
ここにある何百枚っていう写真が、モノクロに見えた。
大切な人の笑顔だけじゃない。この写真には、たくさんの人からの拍手や尊敬の声が詰まっている。
でも今の俺にとってこの散らばった世界たちは、ただの紙切れ。なんの価値も見出だせない。

「捨てたいのに……なんで、捨てられないんだろ……」

息苦しくなって、星から目を逸らすように寝返りを打ち、身体をくの字に曲げた。
でも、俺の視界が『俺』を逃がさない。
見慣れたカメラが、目に飛び込んできた。

喉の奥が、ぎゅっ、と絞られる。

もう古いものだから、買い直すように言われたこともあった。でもこれには、思い出がたくさん詰まっていた。俺が覚えていないことも、全部。
機能は古いし、あちこち傷だらけ。それでも不具合が出る度、修理に出して、大切にしてきた。
だってこのカメラは、初めて買ってもらったもの――俺にとって、分身みたいなものだったから。

あの時は、世界がキラキラしていた。
あの時は、激しく胸を揺さぶられた。
だけど俺の世界は、あの日、一変してしまったんだ。
無駄にデカい手のひらで掬った何もかもは消え、写真たちは紙くず。心に灯っていたはずの熱も、いつの間にか冷たくなっていた。
そうして、どこまでも続くと思っていた俺の世界は、今、この部屋の天窓と同じくらい狭くなってしまった。

世界を狭めて閉じこもっているのは……自分自身、だけど。

でも、それでいい。
もうキラキラも、あの熱くなるような瞬間もいらない。
俺だけの世界をフレームに収める気も、果てしなく続く世界にも興味がなくなった。
このまま、ずっとこの手に届くだけの世界で生きていくのがいい……。

世界を閉ざそうとしたその時、どうしても耳に残る声が聞こえてきた。騒がしいあそこだったらそうでもないけど、この静かな島ともなれば夜8時に大きな声で喋っていたら、嫌でも響く。
「最悪」
つぶやく声に合わせて、眉根が寄る。
この声の主たちを、知っている。というか、ひとりは隣に住んでいる……あの人。
近所に越してきたから、年齢が近いから。
ただそれだけの理由で、あの人たちは俺の世界に踏み込んできた。

「外出てこいよ!」
「ちょっとでいいから、学校に来ないか?」
「それが嫌なら、一緒に遊ぼう!」

どれだけ突っぱねてもめげずにやってくるし、隠れていても見つけ出す。例えひどい言葉を言ったとしても、次の日には笑ってまた俺を誘ってくるんだ。
お節介なヤツら。
放って置けばいいのに、あの人たちは連れ出そうと、俺の世界を広げようとする。
島の子どもってみんなあんな風に無遠慮で、距離感がないんだろうか?
本当にめんどくさい。
めんどくさい、はずなのに……

心に、失くしたはずの熱がまたじんわり広がっていく。

それは、初めてカメラに触れた瞬間の感覚と似ていた。
目の奥がチカチカして、めまいがする。
なんで? あんなヤツら、うるさいだけ……なのに。

自分の感情がごちゃごちゃのまま、カメラをもう一度掴んでみた。そして、今度は天窓にレンズを向けてみる。
その先に広がるのは、大小様々な星たち。
小さな光、大きな光、少し青白いもの、ほんのり赤いもの。
あそこでは見られなかった星が、そこにある。
「……まだ、色はついてるかな」
ぼそりとつぶやいた声は、すぐ大きな声によってかき消された。
世界を閉ざそうと作り上げた壁が、ガラガラと音を立てて壊されていく。
「宇良星真! まーたゴロゴロしてんのか! いーかげん外に出てこい!」
面倒で。
「こいつ、カメラ買ったらしくてさ。星真に写真の撮り方を教わりたいんだってさ」
お節介で。
「ねえ、星真君。よかったら、星波島自慢の星空を撮る方法、教えてくれないかな? 私、星真君と一緒に写真を撮りたいの!」
バカがつくほど優しい、この人たちによって――……。
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