星波島星祭り in WEB

星屑へリオグラフ 星波島前日譚

「で、星祭りのステージ、どうすんだよ。言い出しっぺの夕月は職員会議でいないし」
「夕月はお笑い芸人でもアーティストでも、呼びたい人を呼べば? って言ってたけど……」
フェリー乗り場への道すがら、そんなことを口にしたのは波智だった。
部活動が終わり連れ立って帰る中、話題の中心は、先程顧問である夕月が言った一言。
「星祭りのゲスト、考えてね」

「本当に誰でもいいってことなのか?」
「夕月が言うならそうなんじゃないかなあ」
夕月の口添えもあり、写真部は星波島観光協会の手伝いをすることになっていた。写真部として何か出店をしなければ――と島がちゃを作ることにしたのも記憶に新しい。
それに加えて、今度は星祭りのステージに出る人を選んで欲しいときた。
「そんなの思いつかない」
俯きながら、そう零したのは星真だ。理音は星真の後ろを歩きながら、一番前を歩く波智に声を掛ける。
「波智とかさー、なんか思いつかないの」
「急に言うなよな。俺も考えてるっつーの」
言葉通り、波智も先ほどから唸り声をあげている。これといったゲストが思い浮かばないのだ。
けれど、唐突に。
「なあ、呼ぶ人ってバンドマンでも良いのか……?」
良いことを思いついたとばかりに、波智の目がきらりと光る。
「ならさ、俺、スタブル呼びたい!!」
スタブル、という言葉を聞いて、昴も頷いた。
「それは俺も聴きたいなぁ」
星真は聞きなれない言葉らしく、首を傾げている。
「スタブル?」
「バンドなんだよ。みんなかっこいいんだけど、特にドラムの音が好きでさ……!」
「俺はベースかなあ……あの優しいのに存在感のあるところとかもいいよな。ヴォーカルの声も勿論好きだけど」
私はギターの音が好きなの、と零したのは写真部の紅一点だ。
数か月前に、波智が深夜テレビでインディーズバンド特集番組を見ていた時に、スタブルにハマった。誰かがハマったものは、幼なじみのネットワーク内でも流行し、自然とスタブルの曲を聴くようになっていたのだ。
波智が興奮のままにスタブルについて話していると、理音が口を開いた。
「ねえ。あんたたちが言ってるスタブルって、starlit blue topiaのこと?」
「そうだよ。インディーズのバンドなのによく知ってるな」
特に理音は都会から来ているのだ。都会には、沢山のバンドがある。スタブルだって知名度はそこそこあるが、メジャーデビューしているバンド程は知られていない。
だからインディーズのスタブルのことを知ってるなんて、珍しいのだ。
昴の言葉に、理音は何でもないことのように言い放った。

「知ってるに決まってるでしょ。だって知り合いだもん」

皆が一斉に理音の顔を見る。星真でさえ、驚きの表情を浮かべていた。
最初に我に返ったのは波智だった。
「……どういうことだ?」
「だーかーらー、知り合いなんだって」
当たり前のことを当たり前のように言う理音だったが、そんなの一度も聞いたことが無い。
「知り合い!? まじで!? なんで知ってるんだ?」
「メンバーと親戚なの。だから知ってて当然でしょ」
「ならサインとか欲しい!」
「頼めばくれるんじゃないの?」
理音はその後に「多分」と小声でつぶやく。
「まじかよ!」
「波智うるさい」
「う……悪かったって。なあなあ、知り合いなら、ゲストを頼めたりするのか?」
「聞くだけ聞いてみる。ま、あんまり期待しないでよね」
そう言うと、理音はポケットから携帯を取り出して、数度画面をタップして電話をかけ始めた。
ワンコール、ツーコール。
スリーコール目で通話が繋がった。
『久しぶり』
先ほどまでの騒がしさはどこへやら。皆、電話口から聞こえる声に耳を澄ましている。
『おー。なんだよ、あいつらに用なら直接掛けろよな』
『違う。依空に用事。ねえ、今度こっちでちょっとしたお祭りがあるんだけど、出ない?』
電話先の主ははあ、なんて気の抜けた返事を返すものだから、理音は口早に星祭りの概要と、開催日を伝えてしまう。
『おいおい、まだ出るって言った訳じゃないだろ?』
『でも駄目って言った訳でもないでしょ』
『そりゃそうだけど……』
そして幾らか間があった後に問いかけられた。
『それってさ、俺らの単独ライブってこと?』
『単独ライブ……まあ、そういうことになるかな』
まじか! と興奮したような声が電話口から聞こえてきて、思わず昴は笑った。
理音はうっとうしいとでも言うかのように眉間に皺を寄せる。
『……で、どーするの?』
『決まってるだろ。出るよ』
『……即答するんだ。もっと考えると思ったのに』
『スタブルを知ってもらえるなら、俺はなんだってするからな。出演の件、メンバーには伝えとく』
『りょーかい』
それから二、三言話してから理音は通話を切る。緊張の眼差しで見守っていたみんなを見て、理音は「出るって」と伝えた。
「ほんと……!? 嬉しい!」
「サイン貰えるかも知れないから、星祭りの日までに色紙買っておこう……!」
「……俺も聴いてみたい」
「俺のおすすめ、星真にも教えるからな!」
こんなにも分かりやすく喜ぶのだから、こういうのも悪くない、と思える。
夕日が差し込むフェリー乗り場に、浮足立った学生が五人。
理音の笑い交じりの息は、潮風が攫って行った。

星波島と、starlit blue topia。
物語の歯車がかみ合って回り始めるまで、あと――。

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