星波島観光協会

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in the blue sky

夏のギラギラとした青とはまた違う、透き通るような青空が、私たちを包み込む。
その風景を、去年、小さい頃から貯めていたお年玉で買ったデジカメで収めた。一面の青に、ぷかぷか浮かぶ白い雲。歩きながらだから、景色は次第に変わっていき……碧が交じった。そこにふんわり、潮の香り。

海だ。

見慣れた景色だけれど、ついついレンズを向けてしまう。瞬間、足元が見えていなかった私の視界がガクン! と揺れた。
ドサッ!
そんな音と共に、私の身体をしっかりした腕が抱きしめる。
「歩きながらは危ないだろ」
顔を上げると、昴の呆れた顔がそこにあった。こけそうになった私を、抱きとめてくれたらしい。「ごめんね」と謝りながら、立ち上がる。
「君は相変わらずぼんやりさんみたいだね」
かんちゃんの言葉が照れくさくて、笑ってごまかしていると――
「ぼんやりって言うより、抜けてるだけでしょ」
理音君の厳しい言葉に、表情が固まってしまった。本当、そのとおりです。でも、わかっていても、がっくりうなだれてしまう。
いつもならフェリーに向かうまでの道はひとりの時が多いんだけど、今日は偶然が重なったみたい。途中、途中でみんなに会って、こうしてぞろぞろ歩いている。
「ホント楽しみだよなー!」
「波智、そればっかり」
「仕方ないだろ。ずっと生で聴いてみたかったんだよ。スタブルの歌!」
興奮気味に話す波智の横で、星真君は「ふぅん」と興味なさげ。でも一応聞いてはあげているらしい。感情があまり表に出ないけど、そういう優しいところがあるってことを、私はちゃんと知っている。
微笑ましく見ていると、隣にいた理音君がため息をついた。
「あいつら来るくらいで、はしゃぎすぎじゃない?」
その言葉に反応したのは、昴。
「そりゃあ、天地君はスタブルのメンバーのいとこだからそう思うかもしれないけど……俺たちにとっては、大好きなバンドなんだ。気分が上がるのは仕方ないよ」
「ふーん、そんなもん? 全然わかんない」
理音君の反応に苦笑する昴の声に重なって、私の左隣にいたかんちゃんのふわふわした笑い声が聞こえてきた。
「きっとバンドのファンじゃなくても、島民はワクワクしてるんじゃないかな。この島でライブやるなんて、初めてのことだし」
かんちゃんは、目を細めて空を見た。
「今年の星祭りは、ひと味違った面白いものになりそうだね」
かんちゃんの言う通り。今年はひと味もふた味も違う。
私たちの大好きなバンドが来てくれるだけじゃない。去年までは昴と波智と三人で行っていた星祭り。でも今年はかんちゃんが戻ってきてくれるだけじゃなくて、星真君や理音君っていう新しい仲間も加わって、六人で行くことになったのだ。
変わらないわけがない。

変化は、怖い。
だって、“当たり前”だったことを壊されてしまうから。
今まで歩いていた道が、突然ガラガラと目の前で崩れていくような感じ。戸惑うのは当然だと思う。
「今年の星祭りは、願いが叶う彗星が流れる年だからね。きっとにぎやかになると思うよ」
かんちゃんが東京に行ってしまった時、それは嫌というほど痛感した。今まで毎日遊んでいた幼なじみが、いない。それだけなのに、胸が引き裂かれるように苦しかったのを、今も覚えている。
だけど、それだけでもない。
「願いを叶える彗星、ねえ。嘘くさいんですけどぉ~。まあでも、お祭りの屋台はちょっと楽しみかも。久しぶりにクレープ食べたいんだよねぇ」
「島の屋台にクレープはない」
「はあ!? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃない。チョコバナナもなかった」
変化は、楽しいこともあるんだって、理音君と星真君が教えてくれた。
今じゃ、ふたりがいなかった生活がどんなものだったのか忘れちゃった。それくらい、ふたりはこの島に、私の生活に馴染んでいる。
「屋台って言ったらイカ焼きだろ!」
「あと、星波島名物の黒蜜かき氷とかもいいよな」
それは波智と昴も、感じているんだと思う。だって目の前で話をしながら歩く姿は、とっても楽しそうだもん。
私は持っていたカメラを取り出して、五人にレンズを向けた。
「ねえ、みんな!」
私の声に気付いた五人が、それぞれ足を止める。

最初に気付いた星真君は、フードを目深にかぶった。
「……撮るの?」
波智は苦笑いしたけど、すぐ柔らかい表情に変わる。
「お前すっかり写真好きになったな」
理音君は悪戯っ子みたいに笑って、両手で写真の形を作った。
「オレを撮るなら、撮られる覚悟、あるんだよねぇ~?」
少し遅れて私に気付いた昴は、いつもの優しい笑みを口元に浮かべる。
「危ないって言ったのに……まったく、困ったヤツだな」
そして、最後にかんちゃんがこちらを振り返って――
「君に撮られるなら、悪い気はしないね」
そんな彼らに私も笑みを浮かべながら、シャッターを切った。

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