星屑ヘリオグラフ

天地理音

Profile
学年:高校3年生 / 誕生日:4月14日 / 星座:牡羊座 / 誕生花:ドウダンツツジ / 血液型:B型 / 趣味:カメラ / 特技:/歌・ピアノ
転校生。高校3年生。
芸能活動をしていたが、とある理由から星波島にやってきた。
気まぐれな性格で、思ったことは何でもストレートに言う。
そのため人から誤解されやすく嫌われやすいが、本人は全く気にしていない。
典型的な都会っ子で、虫や魚が苦手。
歌がうまく、かつてはバンドのヴォーカルに勧誘されたことも。

4コマ

あまったるい“ユメ”のあじ
ステージから降りた瞬間、全身の力が抜けた。
「お疲れ」とスタッフに挨拶をして、とっくに限界を迎えていた身体をひきずりながら、なんとか楽屋に戻る。楽屋の扉を開こうとした瞬間――オレはそこで意識を手放した。

目が覚めたらそこは病院で、ぼんやりとした視界の中でオレの顔を心配そうに覗き込むマネージャーと視線がかち合った。
「大丈夫なの!?」
「ん。まー大丈夫じゃない?」
「まったく! どうして無理をしたの! 何で言わなかったの!?」
「んー……」
怒っているように見えたのは気のせいではなかったらしく、矢継ぎ早に叱られる。
(……限界だなんて、言える訳ない)
だってあの時、目の前には最高の景色が広がっていて、オレを求めるたくさんの声で胸が苦しいくらい満たされていて、ずっとこの場所にいたいと思っていたのだから。

曖昧な言葉を転がして適当に謝れば、マネージャーはぴしゃりと言った。
「あなたは、しばらく休業ね」
「……は?」
思わず漏れた間抜けな声。
「冗談じゃない。バカじゃないの?」
「バカで結構。休業って言ったら休業よ。仕事はしばらく断るわ」
「はあ!? 絶対にいやだ! ふざけてんの? 笑えない冗談言わないで欲しいんだけど」
「ふざけてないし、絶対にだめ!」
そんな言葉の応酬は、傍についていた看護師に「お静かに」と注意されるまで続いた。
「これは事務所命令よ。従えないなら契約は破棄するわ。良いわね」
「何だよ、それ……」
反論する余地もなく、そんな一言でオレはしばらく仕事を休むことになってしまった。
マネージャーが帰り、部屋に静寂が訪れた途端に、大きなため息をつきながら、そのままオレ用に設えられたベッドに倒れ込んだ。

「また、か……。いいところだったんだけど、な」
仕事は順調過ぎるくらい順調で、オファーがひっきりなしに来て、それを可能な限り全部受け、休む暇もなく仕事に明け暮れた。
辛いなんて思った事はなかったし、むしろもっと、もっと! こんなんじゃ足りない……そう思っていたけど、オレの心を身体が支えきれず、今、こうして病室の天上をぼんやりと見つめている。
昔から身体が弱く、何をするにも、この身体はオレに制限を与えた。
制限を無視して、限界を突破すれば、気が付いた時には今みたいに病院のベッドの上。
心だけが先に走っていって、身体が追いついてくれないのは今に始まったことじゃない。
「……もうちょっと頑張ってくれればいいのに。この……ぽんこつ」
手のひらを目の前にかざし、何度か開いたり閉じたりする。
”ユメ”をこの手に掴むために、オレはがむしゃらに努力してきた。
出来ない事を克服し、それだけじゃ足りなくて、求められるものの上を行けるように常に考えて、考えて。
そうやって手に入れたのが、今の地位。
でも、それだって制限がついた。
いつだったか、マネージャーから言われた言葉が脳裏を過ぎる。

「誰かの夢や望みを自分のものだって思いこんだ時から不幸は始まってる。あなた自身の夢を見つけなきゃ、先は見えてるわ」

身体に制限を設けられたまま、それでも努力して掴んだ”ユメ”がある。
だけど、それはあいつの”ユメ”で、オレの”ユメ”じゃ、ない……?

沈んでいく思考を振り払うようにため息をついて、なんとなくスマホに手を伸ばす。
ニュースアプリを立ち上げて適当に流していると、目に留まったのは星空の写真だった。
空の一部を切り取って、そのまま閉じ込めたような写真。
歌みたいな写真だと思った。聞こえないはずの音が聞こえてきて、夜空に重ねた想いを引きずり出してくるような、そんな写真。
間違いない。これはあの日見た星空だ。
スマホを近づけて、食い入るようにその写真を見る。それは何かの写真展の過去の受賞者に関する記事だった。逸る気持ちのままに読んでいくと、そこには……「うらしょうま」という写真家の名前。
これだ、と思った。
新しい何かを掴むための鍵を彼が持っている気がして。
この病室を出た後のオレの行き先は、今この瞬間に決まった。
目を閉じて、もう一度あの時見た満天の星空を思い出す。

「世界はね、手を伸ばした瞬間から広がるんだ。怖くないから、伸ばしてごらん」
あいつにそう言われて、夜空に手を伸ばした。そうして掴んだのは――。

「……」
ゆっくりと瞳を開けると、マネージャーが差し入れてくれた金平糖がチェストの上から流れ星のように手のひらにこぼれ落ちてきた。
星みたいな色のそれをそのまま一粒口に放り込めば、甘い味が広がる。
「……あまい」
もし、あの言葉通りオレが掴んだのがあいつの”ユメ”で、オレの”ユメ”じゃないなら、今度はオレの”ユメ”を掴みにいけばいい。
ここに来るまでだってそうしてきたし、それで簡単に掴めないなら面白くていいじゃないか。
何より簡単に手に入るんじゃ、つまらない。金平糖のように甘いだけの”ユメ”なんて、そんなものに価値はない。
「なんだか面白くなりそうじゃん」
そう呟いて、俺はもう一粒金平糖を口にした。
この命が尽きるまで、思い切り楽しんでやる――そう心に決めて、星を味わった。

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