【Prologue Story01】alone in the world

「私、昴君が好きなの! あなたのことしか考えられない……。私と付き合って」
「なんか、イメージと違うっていうか……それに昴君、私のこと好きじゃないでしょ?」

恋の始まりと終わりに聞く言葉は、大体いつも同じだ。
向こうから「好き」って言ってきたのに、勝手に俺に幻想を抱き、幻滅して、怒ったり、なじったりする。その度に考えていた。
あの子たちは俺のどこを好きだったんだろう? 俺のどこがイメージと違ったんだろう?

俺は、あの子たちのことを本当に好きだったんだろうか……?

でもどれだけ考えてみても、答えはでない。
だからまた同じ過ちを犯して、恋人だった女が俺を責める。
「私のこと好きじゃないなら、最初から付き合わないでよ!」
ごめんな。謝ったら余計泣かれてしまい、それ以上なにも言えなくなってしまった。
泣いている女を見つめていると、慰めるよりも先に聞きたいことが浮かんでくる。

なあ、好きってなんだ?
それはどんな気持ちなんだ?

何人もの女と付き合ってきたけど、俺には『好き』がわからない。
だから今までの恋人たちのことも、『好き』かどうかわからないんだよ。
もちろん、大事にはしてきたつもりだ。それが『恋人』だから。
でも……『好き』なのかは、わからないんだ。

「鳴海って、模範解答みたいな付き合いするよな」

いつだったか、クラスメイトに言われた言葉を思い出す。
クラスの男たちでゲームセンターに行って、ガンシューティングゲームで俺ひとりがクリアした時にサラッと言われた。
それは賛辞でも、嫌味でもなく、ただ思ったままを口にしただけだと思う。実際そいつはそれ以降もクラスメイトとして仲良くしてくれたけど、俺の深くまでは入ってこなかったから。
言われて嬉しかったわけでも、嫌だったわけでもない。
でもその言葉は、今でも心の底にべったりと張り付いている。
クラスメイトとの付き合い方、先生に気に入られる授業態度、近所との付き合い方、告白された時の対処法、恋人との付き合い方……。
すべて無難にこなすことは出来るけど、そこに俺の“心”は存在しない。「こうすれば波風立てずにやれるだろう」と頭の中で計算してやっているだけだ。
俺は今まで、そうやって生きてきた。これからもそれでいいんだと思っていた。

でも……それじゃあ、ダメなのか?

必死に考えてみるけど、やっぱり答えは見つからない。まるで雲を掴むみたいに難解で、掴めたと思っても手の中をすり抜けてしまう。
やっぱり俺みたいなヤツに、『好き』を理解することは出来ないんだろうか?
俺は一生、空っぽのままなのか……?
(……この感覚、嫌だな)
まるで海の底へ沈んでいくようで、苦しさを覚える。もがいても、もがいても抜け出せなくて、呼吸が出来なくなるような――……

(もう考えるのはやめよう)
ゆっくり頭を振って、空を仰いだ。
今日やることは……数学の課題と、夕飯の支度だけだな。それを済ませたら、部屋にこもってゲームしよう。
ゲームっていいよな。その世界に入って閉じこもれば、誰も傷つけないでいいし、俺も傷つかない。なにより、自分のことを考えなくて済む。
ゲームをしている時が、一番気持ちが落ち着く。
ああ、早くゲームしたい……。

「おい、昴!」
どこからか名前を呼ばれて視線を戻すと、幼なじみの波智とあいつが俺の顔を覗き込んでいた。
「もうすぐフェリーの時間だぞ」
「ああ……もうか。ごめん、行こっか」
ふたりを連れて歩きだすと、もうひとりの幼なじみが心配そうに俺の名前を呼ぶ。
「暗い顔してたけど……何か、あった?」
いつもぼんやりしているのに、こういう時は鋭い。やっぱり女の子だから恋愛事には敏いんだろうか?
(……いや、こいつに限ってそれはないか)
勝手に決めつけながら、腕を伸ばして頭を撫でた。
「なんでもないよ」
それでもこいつは、眉間に皺を寄せたまま。困ったな、と苦笑していると、波智が肘で脇腹を突いてきた。
「お前の”なんでもない”は、あんま信用出来ねーんだよ」
「そんなことは……」
「なあ、本当に大丈夫なのか? 無理してねーだろうな」
「波智まで心配しすぎだって。本当に大丈夫」
波智に後押しされるように、こいつがまた「本当に?」と尋ねてくる。
「大丈夫、大丈夫。ただ……夏が近付いてきたなーと思ってさ」
胸の痛みを隠すように笑って、俺はまた空を仰いだ。
本当に、何もないんだ。何もなかったんだ。
本当……俺には、何もない。

胸が痛いのは、慣れてしまった失恋が原因じゃない。
俺を心配してくれているふたりに対する想いがなんなのかわからなくて、胸が痛むんだ。

テキスト:浅生柚子( @asaiyuz5