【Short Story03】トレーディング缶バッジ☆

長い思案から目蓋を開くと、そこは不思議な空間だった。

波智の視界に入ってきたのは、球体に閉じ込められた写真部のメンバーだった。球体の半分は透明で、残りの半分は赤やピンク、黄色に紫、緑といったカラフルな色をしている。
これってまるで。
「ガチャガチャのカプセル……?」
あいつを探して見るけれど、どこにもその姿を見つけることはできなかった。
こんな不思議な状況だ、それはそれで幸運だろう。
「ーーで、だ」
問題なのは、他の奴らだった。
不思議なことに、閉じ込められているからと誰も焦っている様子がないのだ。
と、言うよりもむしろ。
「なんか、みんなめちゃくちゃリラックスしてないか……?」
夕月は飼い猫であるカンナとぼんやりしていて、星真はウーパールーパーの親方を愛でているように見える。天地はケーキを食べているし、昴に至ってはゲームをしている。
……昴は、自分がこうして閉じ込められていることに気づいていないかも知れない。
「っていうかちっちゃくなってね?」
自分だけではなく、他の奴らも全員頭の大きさと身体の大きさが同じくらいになっている。
頭がやけに重いと思っていたが、身体が小さくなっているからだろう。
こいつはどうしたもんだろうか。
「おーい、昴?!」
「……」
呼びかけても、昴の視線はゲームの画面だけを見つめていた。それはいつもの昴で、ある意味少しだけ安心した。
なんて、思った時だった。
視界がぐらついて姿勢が崩れる。機械からカプセルが排出されているらしい。
「……まじかよ」
ハンドルが回されてはカプセルの位置が動き、少ししたらまた一つ排出されて……。
(俺の番まであとちょっとじゃん!)
なんでカプセルに閉じ込められているのかとか、ガチャガチャの機械から排出されたらどうなるのか、とか。分からないことばかりで頭はぐちゃぐちゃだ。それでも、どんどんカプセルは排出されていて。
「~~出せー!!」
球体の透明な部分を叩いて見るけれど案外と頑丈だ。
そしてとうとう視界がぐるりと回って、妙な浮遊感が波智を襲った。
(ヤバイ、次は俺かよ!)
そんな焦りを知ってか知らずかカプセルは落下した。カプセルの中で身体が回転する。
ぐるぐると視界が回って、目が回りそうになる。それが収まったときには、カプセルは巨人に掴まれていた。
「……!」
いや、正確には巨人ではなくて、赤ん坊だと思う。それでも、俺が小さくなってしまっている以上、巨人にしか見えないのだ。
「く、喰われる……!」
バクバクと心臓が早鐘を打つ。眼前にアップになったのは、その赤ん坊の口の中で。
もう駄目だと思った瞬間ーーそこで、意識が浮上した。

「……――はっ!」
身体がビクンと強張ってから、目が覚めたのは写真部の部室だった。机につっぷして、眠ってしまっていたらしい。よだれが垂れていないかと口元を拭う。
(――そうだった)
星祭り。
願いが叶う流星が降る夜に星波島で行われるお祭りで、それが臨時で開催されるのだ。
写真部として星祭りに出店するものを作ろうと、みんなで決めていたんだった。
ホワイトボードには、「島がちゃ」という文字が書かれていて、更に「決定!」が赤マーカーで書かれている。
そうか、ここまで決まったらしい。
くああ、と欠伸をしてから辺りを見回すと、不思議なことにみんなも同じように眠っていたらしい。眠そうな表情で、同じようにきょろきょろと部室を見渡している。
……夕月はいつも通りと言えばいつも通りだったけど。
「なあ、俺今夢見てたんだけど、それが変な夢でさ」
「何それ。なーんかオレも変な感じの夢見てたかも」
「俺も」
見ていた夢について、天地と星真も首を傾げていた。
「なあ、それってなんか球体に閉じ込められてて……」
なんて、言いかけた時だった。
ぱたぱたと、外の廊下を走っている音。その音は写真部の前で止まって、やがてがらりと部室の扉が開いた。
「お、遅くなっちゃってゴメンね……! 話、どこまで進んだ?」
申し訳なさそうに謝るあいつは、職員室に呼ばれてたんだっけ。
「島がちゃを作るってとこまでかな」
「なあなあ、そんなことよりちょっと面白い話があってな」
夕月の言葉を遮った。こんな面白い話のネタ、あいつにも話さなきゃ損だ。
「そういやさっき、みんなで夢見ててさ――」
そんな風に前置きをして話始めれば、あいつは面白そうな話に食いついてきて。目がキラキラと光っているもんだから、俺はさっきの夢を話すことにした。

――それから本題に戻ったのは30分後で、下校の時間になってしまったのは想像通りだった。

テキスト:わくわく( @wakupaka