居間にあるテレビよりもかなり小さなテレビに映っているのは、豆粒ほどの大きさの戦闘機。その先端からは光線のようなものが打ち出され、現れる敵を次々と倒していく。
そうして戦闘機はどんどん前へと移動して――さっきまで倒していた敵の数十倍はある大きさの敵と遭遇した。
ボスだ。
さっきまでの敵とは、比べ物にならないくらいの弾数で爆弾だの光線だのを仕掛けてくるボス。一見すると隙のない攻撃だが……戦闘機はわずかな間を縫って爆弾を避けながら、ボスに攻撃を食らわせていく。
そしてついにボスは倒れ、画面には色とりどりの花火のようなものが打ち上がった。
「っし!」
慣れたステージとはいえ、やっぱり倒せると嬉しい。
波智に言わせると「暗い趣味」だそうだけど、やっぱり俺は、休みの日は部屋に引きこもって一日中ゲームしていたい。そうすれば誰にも会わないでいいし、何も考えないでいいからだ。
ただひたらすら、「次はどうやってクリアしよう」ってことだけに集中する。その時だけは、現実が干渉してくることがないんだ。
俺は、その時間が好きなんだ。
普段はかけないメガネを押し上げて、次のステージでうようよしている敵を倒していく。敵の出現パターンはすでに覚えている。あとは、いかにして前よりも点数を稼ぐかを考えながら攻撃していく。
さあ、次のステージが最終面だ。気合いを入れないと――
「昴ぅー、いるかぁー?」
波智の明るい声が、俺の部屋に響き渡った。でもコントローラーはしっかり握って、画面を見つめる。
「お前、まーたゲームしてんのか」
「夏休みくらい、俺の好きにしていいだろ」
「お前ホントゲーム好きだよなぁ……そんなんで、課題とか終わんのかよ」
「初日に全部終わらせた」
「マジか!」
「波智こそ、ちゃんとやってるのか?」
問いかけながらも、俺はゲームを続ける。最終ステージのボスはなかなか倒せないから、集中したいんだ。
「それは……あれだよ、ほら。少しずつ片してるっつーか……」
言い訳している波智の声が、遠くに聞こえる。このまま俺のことなんて放っておいてほしい。今はこのボスを倒したいんだ。
画面がピカピカと何度かフラッシュした後、最終ステージのボスが現れた。自然とコントローラーを持つ手に力がこもる。
手のひらに汗が滲む。
「波智、昴いたー?」
聞き慣れた柔らかくてのんびりした声音が耳に届いた瞬間、指先がブレてしまう。
(しまった!)
慌ててコントローラーを持ち直したけど、一度切れてしまった集中力はもう戻らない。ボスの集中砲火を浴びて、俺が動かしていた戦闘機は呆気なく大破。
ゲームオーバーだ。
ここにたどり着くまでの長い道のりを思い出してがっくり肩を落としていると、声を発した張本人がひょっこり顔を出す。
俺のもうひとりの幼なじみだ。
こいつは時々見る空色のワンピースを着て、スカートを揺らしながら大きな目をこちらに向けた。形のいい眉が、くっと持ち上がる。
「あ~やっぱり昴ゲームしてた~。せっかく天気がいいのに、部屋にばっかり閉じこもっちゃダメだよ」
「やることはやったんだから、別にいいだろ」
「でも、もう2日も外出てないよね? そーちゃんとなーちゃんも心配してたよ。ダメだよー、ちゃんと太陽の光を浴びないと。元気なくなっちゃうんだから」
ふっくらとしたサーモンピンクの唇を尖らせて、こいつは俺の右手を掴んだ。いつの間にか左手は波智が掴んでいる。
「ねえ、一緒に遊ぼ!」
「外に出て、思いっきり汗かこうぜ!」
俺の幼なじみたちはいつもこうだ。俺の意見を無視して、勝手に物事を決めてしまう。自由気ままで、自分勝手で、無邪気。正直、呆れるところもある。
でも、こうして彼らに求められると心がざわついて……
「仕方ないな」
外なんて面倒なのに、俺は笑顔で、幼なじみたちと一緒にいる方を選ぶ。
「よーし! 決まりだな! なあ、サッカーしようぜ!」
「3人でどうやってするの? それより、泳ぎたいなぁ」
「水着持ってきたのか? 慣れてるからって、服着たまま泳ぐのは危ないからダメだぞ」
「さっきまでゲームの廃人みたいな顔してたのに、急に母ちゃんみたいなこと言うよなぁ、昴って」
「それはお前らがちゃんとしないからだろ。待っててやるから、波智も水着持って来い」
「んじゃ、10分後に砂浜に集合な!」
「ちゃんときてね、昴!」
「はいはい、わかったよ」
幼なじみたちに笑顔で手を振り、見送る。太陽の日差しを浴びながら、楽しそうに駆け出すふたり。キラキラ輝いて、眩しいくらいだ。
俺とは全然違う。
それでも俺は、ふたりと一緒にいたい。離れたくない。
だってそこには、俺の居場所がある気がするから――……。
テキスト:浅生柚子( @asaiyuz5 )