【Sweet Story01】Valentine day with 昴

「ハッピーバレンタイン!」
そんな明るい声と共に、可愛らしい包装の箱を突き出してきた幼なじみの彼女。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
こうやってこいつからバレンタインにチョコをもらうのは、今に始まったことじゃない。こいつが「バレンタイン」という行事を知ってから、波智と一緒に毎年貰っている。ある年はスーパーのチョコだったり、ある年は都会で売ってるちょっと値段が張るチョコだったり、またある年は手作りだったり。3人でチョコフォンデュを食べた年もあった。

だから――

「ありがとな。今年はなんだろな~? 楽しみだよ」
いつも変わらない笑みを浮かべて、チョコを受け取った。いつもならここでこいつから「もっとありがたがってね」だとか「自信作だよ」とか、いろんな言葉が飛んでくる。だけど、今年は唇を尖らせた不満顔。もちろん、こんな顔になっている理由はわかってる。
こいつは、俺がもっと喜ぶと思ってたんだ。でも、残念だったな。俺がそんな素直な反応するわけ――
「あ……ふふ」
「どうした? 急に笑いだして」
首を傾げていると、こいつはおもちゃを見つけた子どもみたいな顔をして、俺の顔を覗き込んできた。あ、嫌な予感。
「昴の顔、ちょっと赤いよ」
「っ!?」
慌てて右腕で顔を隠すが、一足遅い。こいつは俺の腕に手を乗せて、ぐいっと下げてきた。見られたくなくて必死に抵抗するものの、こいつは楽しそうに笑いながら、「見せて」とねだってくる。それだけは嫌だ、と顔をそらす。
「よかったー。昴にとって私からのチョコって、相変わらず幼なじみ枠なのかと思ったから」
そんなわけないよって心の中で呟いて、代わりにこいつの頭に左手で軽くチョップをかましてやった。「痛い」と言いながらも、まだ笑っている。その表情に胸をくすぐられながら、俺はこいつの耳元に唇を寄せた。
「必死に余裕ぶってるんだから、見逃しなさい」
するとこいつは更に楽しそうな声で笑いながら、小さく頷いてくれた。

テキスト:浅生柚子( @asaiyuz5