【BACKSTAGE Story】Photo Episode side Arata

一瞬の静寂の後にカシャ、と俺が手にしていたカメラからシャッターを切る音がスタジオに響いた。いくつかボタンを操作して、今取れた写真の出来を確認してみる。画面に現れたのは、俺が撮ったばかりのありたか。
(あと何ショットか撮ってみようかな)
ここまでにとあとあらん、それから俺の撮影が完了していてーー予定していた通りに撮影は進んでいた。


「俺、今度のシングルのジャケットの撮影やってみたい」
そう言い出したのはライブが終わって、しばらくしてみんなに会った時だった。シングルの二曲目はどんな風にしたいだとか、作詞作曲は誰がやるか、とか。そんなことを決めているなかで、俺はふと口にしたのだった。
「できんのかよ」
「大丈夫」
「まじかよ」
「うんまじ」
あらんは少し疑わしそうな表情をしていたけれど、俺がいつものように言い切ってしまえば納得したみたいだった。
「それはコンセプト決めも新がやるってことかな?」
ありたかの言葉に頷く。
「へー、新がな~。何か心境の変化か? もしかして新しい女ができたとか?」
「……」
にやにやと笑うイソラさんに茶化したように言われて、俺はスルー。確かにあのライブハウスで見た、光る海の光景を俺はこれから先ずっと忘れることはないと思う。そう思えたくらい、俺のまぶたの裏にはくっきりと焼き付いていた。
新しい女のところはおいておくけど、イソラさんの言葉を無視したのは……それがきっと真実だったから。
(今まで見たことないことを見たいって思っちゃったからね)
だから、今までしたことのないことをしようと思った。ただそれだけの理由だった。
突然のことにみんなにどんな反応をされるかと思っていたけれど、みんなの表情は明るいままでどこか安心する。
「いいんじゃないかな。きっと俺にはないアプローチをするだろうしね」
「確かになんだかんだセンスは悪くねえしな。あんまり過ぎたら有貴が手を加えるだろ」
「楽しみだねえ! あ、僕にもなにかできることあったら言ってね!」
みんなの言葉にどこか背中を押されたような気持ちになって、俺は自信を持って答えた。
「今までにない感じにするつもり。だから楽しみにしてて」


そうして迎えたジャケット撮影当日――。
今回のコンセプトは、今までありたかがやってことなかったこと。それはちょっぴり刺激的で、とあの言葉を借りるならえちえちってことだった。
「んー……」
今までに撮ったありたかの写真を見返してみると、悪くはないはずなのに何かが足りないような気がしてくる。このまま終えてしまってもいいけれど……。
「思い通りのものが撮れていないって表情だね」
「撮れてるけど、何か足りない気がしてる。でも何が足りてないか分からない」
「……なるほどね」
(腕まくってもらう? それともあらんとかとあみたいにちょっと脱いでもらうとか?)
だけど、どれもありたからしさが引き出せているなんて思えない。何かいい案はないかなとありたかの顔をじっと見つめていると、近くに置いてあった鏡が目に入って。
鏡に映った俺の顔を見て、ふっと頭の中に何かが降りてくる。
(あ、これいいかも)
「ありたか」
俺はワックスを手につけてからありたかの元に歩いて行って。おもむろにありたかの前髪に手をかけて、ぐっと持ち上げた。普段あまりみることができない、ありたかのおでこ。
予想通り、ありたかは俺の行動に驚いているようだった。
「?」
「おれで俺とおそろい」
「……そうだね」
丸見えになったありたかのおでこが、少し眩しく見える。鏡で自分の顔を確認したありたかが楽しそうだったから、俺はこれが間違いじゃなかったと思えた。
「ありたか、もういっかいさっきのポーズして」
「分かったよ」
俺は前髪が上がったありたかの姿を収めるべく、再びカメラを手に取った。