オレの分の撮影も何事もなく終わり、他のメンバーの撮影が終わるまで暫く休憩してもいいと指示される。
「俺、今度のシングルのジャケットの撮影やってみたい」
新がそう言い出した時は、どんな被り物をさせられるのかとヒヤヒヤしたが、実際には想像の真逆だった。今までのスタブルではなかったギリギリでアダルトな路線は、正直悪くない。スタブルの新しい扉っていうのが開けたように思えた。
オレはポケットの中に残ってた小銭を確認した後、今日の功労者である新にジュースでも奢ってやるかとその姿を探す。
程なくして見つけた新の隣には有貴がいて、撮影したデータを見ながら二人で話し合っていた。
撮影用に髪型を変えてることもあって、真剣に撮影データを見ている新の横顔はいつものそれではないように見えて、オレは声をかけることなくロビーの自販機へ向かった。
自販機に小銭を入れて、まずはいつも飲んでいる炭酸飲料を買い、次にブドウジュースのボタンを押した。
がたん、がたんという連続した音と共に、取り出し口にジュースが落ちてくる。
ワンマンライブ前後から、新は見違えるように変わった。
今までの新は依空や有貴が指示したことだけをこなしていたが、最近はMCを一人でやりたいと言ったり、今回のジャケットをプロデュースしたいと言ったり、スタブルでやりたいことを口にするようになってきた。歌以外は、まるでやる気がなかった今までと比べたらかなりの成長だ。
ようやく、スタブルのヴォーカルとしての自覚っていうのがアイツの中に出てきたのかもしれない。
取り出し口から、ジュースをジュースを二本取り出し、オレは炭酸飲料の方に口をつける。
「しかし、アレ……本当に大丈夫なのか?」
思い出すのは、自分の前に撮影した叶亜のポーズ。ドン引きして叶亜を落ち込ませてしまったが、新は満足そうにしていたし……ああいうのが、実は受けるのだろうか。
そっと、辺りに誰もいないことを確認してから、オレは適当な場所にジュースを置く。
「たしか……こうだったはず」
記憶を頼りにしながら、オレはTシャツの裾を咥えて、頭の後ろで手を組んでみた。
「…………………」
自販機のアクリルガラス越しにうっすら映る自分の姿を見た瞬間、自分の恥ずかしさに顔から火が出そうになる。やめだやめだ! やっぱりねぇよ! そう思って、やめようとしたとき、カシャッと乾いたシャッター音が聞こえた。
「は…………?」
音のするほうを見てみると、そこにはカメラを構えたまま、ニヤニヤと笑う新の姿があった。
「あらんのセクシーショット、激写しちゃった」
「……おい、新。今すぐそのデータ消せ、ついでにお前の頭からもさっきの記憶を消せ」
「やだ。さっきの、とあに見せたら元気になってくれるかな? 見せに行こっと」
「おいバカやめろ! シカに見せたらぜってぇに許さねぇ! 待て! 新!!」
カメラをかかえたままぱっと逃げしまった新を、オレは慌てて追いかける。
オレがロビーにに置いたままのジュースの存在を思い出すのは、それから三十分後のことだった。