【BACKSTAGE Story】Photo Episode side Aritaka

「ありたかお疲れ」
そんな新の声で、俺の撮影は完了したことが分かった。ふと時計を見れば、撮影を始めてからあまり時間は経っていない。想像以上にサクサクと終わったのは、きっと今回のカメラマンが新だからだろう。
(被写体の魅力的な表情を引き出せるかどうかはそのカメラマンの力量次第、なんて話もあるくらいだからね)
その証拠に、今まで新が撮った叶亜に亜蘭は、俺が今まで撮った時には見せないような表情をしている。きっとこれは新がカメラマンだからこそ、見せた二人の表情だ。
(たまにはこういうのも面白くていいかもしれないね)
撮った写真のデータを確認している新は、前髪を上げる前とは違って随分と満足そうな表情をしていた。
「想像通りのものが撮れたかな?」
「期待以上かも」
「楽しみにしているよ。……さて、と。最後は依空だったよね? 呼んでくればいいかな」
「うん。ありたかありがと」
俺の引き出すことのできなかった表情を引き出してきた新は、依空のどんな表情を切り取るのだろう。
純粋な楽しみな気持ちの中に混ざる、少しばかりの寂しさ。その寂しさを抱くことに不思議な心地よさを感じながら、俺は休憩がてら外にいるであろう依空を呼びにいくことにした。

*  *   *   *   *

自販機で買ったミネラルウォーターを片手に、ぼんやりと依空が撮影されているのを少し離れたところで眺める。依空相手にああでもない、こうでもないと次々に指示を出していく新を見て、ふっと笑みがこぼれた。
撮影をしていた時の俺と新も、きっとこんな風に見えていたに違いない。
(……我ながら新鮮かも)
いつもは俺がみんなを撮る側に回っていたものだから、こうして改めて見ると新鮮だ。そう、新鮮と言えばもうひとつ。
スマホのカメラを起動してれば、見えたのは前髪を上げた俺の顔。それは代わり映えのしない、いつもの俺の顔だった。
日常生活を送る中で前髪を上げる機会はほとんどないから、それをカメラに撮られるのは少し変な感じがする。だけどーー。
(これを亜蘭風に言うなら、「悪くねえ」かな)
新も満足そうにしていたけれど、もしかすると俺自身も満足しているのかも知れない。きっと俺ならば、こんなコンセプトで、こんな写真を撮ることはなかっただろうから。
どの一枚がジャケットになるのか。今からそれが楽しみだった。

スマホを弄りながらそんなことを考えていると、気づけば依空の撮影も完了したらしい。
「サンキューな。新もお疲れさん」
「疲れた。イソラさんご褒美に何かちょうだい」
「俺金欠なんだけどなー」
「けちんぼ」
「うっ……」
ちゃっかり新にたかられている依空に笑っていると、いつの間にやら亜蘭も戻ってきていたことに気づく。依空と亜蘭は俺の顔をじっと見つめていた。
(?)
女性にじっと顔を見つめられることはあっても、彼らに見つめられることはあまりない。俺の顔だって、いつもと変わらないはず。
じろじろと見られることにどこか居心地の悪さを感じていると、亜蘭と依空は不意にじゃんけんを始めた。
その不思議な行動に思わず首を傾げていると、やがて二人して俺の元へとやってきて。そして亜蘭は腕を眼前に出したかと思うと、俺のおでこを中指で弾いた。
「……!」
突然のでこぴんに、俺の頭の中に生まれたのは痛みよりも驚きだった。
「おでこそんなに晒してるから、そりゃもうやってくれっていってるようなもんだろ」
「実際有貴のデコ出しなんてレアだしな」
いまだに呆然としている俺の前で、二人はいたずらが成功したときのような表情をしている。……二人にとってはいたずらと変わらないようなものだろうけれど。
(……今度亜蘭と依空に俺もやってみよう)
三倍返しという言葉が脳裏にちらつく中、俺はそう心に誓った。