【BACKSTAGE Story】Photo Episode side Isora

ジャケットの撮影が完了して、俺はほっと息を吐いた。とりあえず一つ、やるべきことが終わったということだ。
だが、問題はまだまだ山積みで。
(ジャケットはこれでいいとしても……曲の調整だってあるだろ? スタジオ借りての練習は慎重にならざるを得ないよなー)
俺たちの気持ちを、俺たち自身を届けたいという気持ちは今だって何も変わってはいない。だが、状況として慎重にならなければいけないことが多いのは、正直もどかしい。
(目の前にあるのに遠回りをしなきゃいけないなんて苦行すぎるだろ)
俺は回りくどいことをするのは得意だったが、回りくどいことをされるのは得意じゃない。
(ってか何よりもまずレコーディングをどうするかだな)
それ以外にもまだまだ細かい『やらないといけない』ことはあるだろう。今となっては時間に融通が利くのは、俺を含めても学生をしている有貴と新の3人だ。存在するリソースは上手に使っていきたい。
(こんな状況だし、レコーディングは叶亜に調整してもらうのが都合が良いだろうな)
何もかも、見通しが立たないことばかりだ。けれど、どこかでこの状況をうまく利用してやろうと思っている俺がいるのもまた事実だった。
先のことを考えなくちゃいけない。けれどそれは『先のことを考えざるを得ない状況になった』ということで。先のことを考えられることのある種の幸福を、俺は知っている。
(大変ではあるけど……でも、きっとこいつらとだからそう思えるんだろうな)
俺はカメラのデータを確認している新を見て、そんなことを思った。

* *   *   *   *

「おー亜蘭か」
「んだよ」
視線をずらせば、少し前に戻ってきていた亜蘭がいた。そんな亜蘭の視線は、やや離れたところに座ってスマホをいじっている有貴で。
(あーそういや新に前髪あげさせられてたっけな)
俺を呼びにきた有貴を見て、じろじろと見てしまったのも数十分前のことだ。
有貴を見ている亜蘭の視線の中にあるのは、物珍しさと……ちょっとしたいたずら心だろうか。それはきっと、今俺の中にあるものと同じだ。
(そう思うのも仕方ないことだろ。それくらい面白そうなことの匂いがするしな)
有貴を見ている亜蘭に、俺はちょっとした勝負を持ちかける。
「なあ亜蘭。ちょっと勝負しないか」
「は?」
「気になるんだろ、有貴のおでこ。デコピン、してみたいよなー」
「まあな」
なかなか見れないもんに興味が湧くのは当然だろ、と亜蘭は笑った。
「勝負は……じゃんけんでいいか?」
「ああ」
「勝ったやつが負けたやつのいうこと何でも一つ聞く。これでどうだ?」
「乗った」
俺の言葉に、亜蘭は笑った。勝ったやつが負けたやつの言うことを聞くなら、有貴をデコピンするのは俺だと思っているんだろう。確かに俺は、そこまでじゃんけんに強いわけじゃない。
(でもな、勝負事なのにそう簡単に勝たせるわけないだろ)
スタブルのメンバーでじゃんけんをすると、だいたい一番で抜けるのは新だ。次は有貴か叶亜が抜けることが多い気がする。
だけどそれは、純粋な運の勝負だからで。
「じゃあ俺チョキ出すからなー」
「は!?」
「そういうわけだから。じゃーんけーん……」
「お、おい……! 心理戦は卑怯だろ!」
ニヤリと笑う俺に、亜蘭は焦ったような表情をする。その表情を見るに、俺が何を出すのかを考えているに違いない。
俺が言葉通りにチョキを出すならグー出せばいいが、それを読んで俺がパーを出す可能性もある。それならチョキを出さないと勝てない。だがもしもそこまで俺が読んでいるとしたら?
そう、純粋な運の勝負じゃなければ、俺の勝率はもう少し上がるのだ。
亜蘭の表情を見ながら、俺は「ぽん!」という掛け声とともにある手を出す。直後に笑ったのは俺の方だった。