【BACKSTAGE Story】Photo Episode side Toa

夜。依空とのレコーディングの最終確認も終わり、軽い挨拶をしたあと僕は通話を切る。この時勢もあって、日取りが決まらなかったレコーディングだったがようやくスケジュールが決まった。久々に出せるスタブルの新曲。ライブで発表したものからさらに依空が改良した曲も、有貴と新が協力して生み出した曲も早く演奏したくてたまらない。レコーディングの日が待ち遠しくて仕方ないなんて、随分久しぶりの感覚だ。
そんなことを思っている僕はスマホの待受にしてあるジャケット 写真に目が止まる。
この写真を撮った時も、いろいろあったなと思い出すと、僕の口から自然と笑いが零れていた。

* *   *   *   *

レコーディングの日取りが決まる前に行われたジャケット撮影。僕の撮影は一番最初に行われた。
今回のジャケット撮影を担当する新に指定されたポーズをいくつか取ってみる。だけど、新はカメラを構えたまま納得のいかない表情を浮かべていた。
「んー……悪くないけど……もっととあらしさが欲しい」
「僕らしさ?」
「うん。とあのイメージするセクシーが知りたい」
「おい叶亜、お前の本気の手本見せてみろよ」
「本気の手本……うぅ……」
「とりあえず腹出せ。それで大体セクシーだ」
「も~依空は適当だな~」
新に言われて、僕はその場で悩んでしまう。多分、ここまで本気でセクシーについて考えたのはこれが生まれて初めてだと思う。
(セクシーセクシーセクシー……セクシーってなに!?)
「叶亜、ちょっといい?」
急に有貴が目の前に立ったかと思うと「口を開けて」と言うので言われるまま口を開ける。
突然、口の裾が僕の口の中に突っ込まれる。
笑顔を浮かべた有貴が「そのまま服の裾を噛んでみようか」と言って、立ち去って行った。
羞恥心に悶えそうになりながらも、新の様子を伺うとまだ納得はしていなさそう。
悩んだ末に、後ろ手に組んでみる。自分でやっておきながらこれはないかもなと思っていた矢先、僕を見る新の目が輝いていることに気がついた。
「それ、いいね」
「んん……?」
「そのまま、目線ちょうだい」
新に言われるまま、カメラに視線を向けると、新がシャッターを切った。
そのまま何枚か撮り、新からOKを貰ったことで僕の撮影は終わりになった。
「ふぅ……終わった」
撮影場所から離れて水を飲もうとした時、ふと自分に向けられる視線に気がいて僕は周りを見た。
そこには、満足そうにうなづいている新と、どこか納得した表情で微笑んでいる有貴、にやにやと嫌な笑いを浮かべている依空と……僕を見て明らかにドン引きしている亜蘭の姿があった。
「あ、亜蘭……あのね、さっきのは……」
僕が弁明しようと亜蘭に近寄ろうとすると、あからさまに距離を取られて視線をそらされた。
その瞬間、僕は目の前が真っ暗になったような絶望感を覚えた。

「まぁまぁ……俺はさっきの叶亜のやつ好きだけどな! 草食動物に見せかけて、肉食動物って感じで!」
絶望のあまり僕が壁の隅に座り込んでいると、依空のフォローの言葉が聞こえてくる。
「……依空に褒められても全っ然嬉しくない」
「ひどいな!?」
「俺も冗談抜きで良かったと思うよ。今までにない叶亜の魅力をSeeker達にも伝えられたんじゃないかな?」
「そ、そうかな……」
有貴からの言葉に納得しつつも、それと亜蘭に引かれたことは別問題だ。どうしたら亜蘭は目を合わせてくれるだろうと、僕が頭を悩ませていたその時だった。

「おい」

突然、降ってきた声は間違いなく亜蘭のもので、僕は顔を上げる。

「その……アレだ……ちょっと引いたけど、まぁよかったんじゃねーの? 逆にああいう方がウケるかもしんねぇし……だから、いちいちグジグジしてんな」
「あ、亜蘭ー……」
一生懸命僕を傷つけないように言葉を選んでいる亜蘭の健気さに、僕は涙腺が緩みそうになってしまう。
だけど、思い余って抱きつこうとしたら「どさくさに紛れて抱きつくな、露出狂!」と拒否されて、僕はもう一度落ち込む羽目になってしまったのだった。