【BACKSTAGE Story】HALO

side Isora

「はい、お疲れ様でーす」
「ありがとうございました!」
ぺこりとお辞儀をしたスタッフたちを見ながら、俺たちは今回の展示会場――HALOのSPACE04を後にした。
「俺たちももうちょっと早く到着できたら、来てくれた子たちにも会えたのにね」
「だよなー」
女の子がたくさんいた、なんて聞いたし。
有貴とそんな話をしながら、心の中でそう呟くと、それがバレていたのか叶亜がくっと眉を上げていた。
「もー! そこふたり! そういうことはしちゃダメ!」
「そういうことってどういうことだー?」
「……依空、分かってて言ってるでしょ」
「さあ?」
叶亜のいつものお小言を聞き流しながら、俺はもう一度展示会場を振り返る。
展示の時間が終了した後、俺たちはサインとメッセージを入れるために訪れていたのだった。実に数日前、展示の準備をした日以来だ。

「本当はサインだけじゃなくてキスマークでもつけたいくらいなんだよなー。その方が届いた時に嬉しくなるだろ♡」
「いらねえ」
「イソラさんのクチビルノキオクは間に合ってる」
「……」
冗談交じりにそんなことを口にすると、新と亜蘭の冷たい視線が俺に刺さる。その視線は想像以上に冷えていて、これも夏には丁度いいってことにしとくか、と無理やり納得させたのも数十分前の話だ。
展示会の会場でパネルにサインを書いていると、スタッフのひとりから、来てくれた子の話を聞いた。
たくさんの子が喜んでいたし、中にはどうしても来たかったから! という熱意をひしひしと感じる子もいたらしい。
その瞬間のことを思い出して、つい言葉が漏れる。
「なんつーか、ライブはもちろんだけどこういうのもいいよなー」
普段なら「オレたちを伝えるのは音楽だけで充分だろ」なんていう亜蘭も、この時ばかりは頷いていた。
そういう子達に、俺たちが返せることはなんだ? 出てきた答えは簡単なものだった。
駅まではあと百メートルちょっと。俺は不意に、交差点で駅とは別方向を指差した。
「んじゃ、いくか」
「どこにだよ」
「決まってるだろ、みんなで作戦会議しに行くんだよ。これからのこと、話し合おうぜ♡」
悪ガキ達が悪巧みするように、俺たちは居酒屋へと向かった。